2019年06月03日

西海王:四の七

「目をつける、と言われてもな。もともと私は流れ者で、ここに住むことを許されているだけのものだ。なるべく人とかかわりあわず、
人の目に触れることなく、ひっそりと暮らすことが望まれている」
外に持ち出していた茣蓙を広げ、土間に広げる。蔓を編んで作った寝台に腰を下ろして、草樹には座布団を渡す。
茶請けには漬物くらいしかないが、何もないよりはましだろう。文句があるなら手土産の一つでも用意して来いってことだ。
青い目をじっとこちらに向けたまま、草樹は口を開こうとはしない。
「村の者たちは知らないと思うが、岳尊師は私を密偵だと疑っている。聖都に何度も手紙を出しているし、姿を見せないこともある」
お前もそうではないのか、と言外ににじませて草樹を見ると、居心地が悪いのか、彼は目をそらした。
「だが、お前には印が現れたと聞いている」
そのまま草樹は外を見ている。沈黙が訪れた。
「それは、王のしるしだ」


続きを読む
posted by Dok at 14:24| Comment(0) | おはなし:西海王 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月14日

西海王:四の六

「あっはっは。失敗しちゃったな」
草樹は、差し出された器を受け取ると、中身を一息にあおった。
「ふぅ〜。ここの水はうまいなっ」
言いながら、その水が流れてくる山のほうを見る。
ところどころに苔やシダの張り付いた岩肌は湿っていて、雨ともなれば小さな滝を作ってみせる。
その中ほどに、短い竹がさしてあり、橙流はその水をためているのだった。

続きを読む
posted by Dok at 16:40| Comment(0) | おはなし:西海王 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月13日

西海王:四の五

「それで?」
柱を支えたまま顔を引きつらせている草樹に、橙流はにこやかに話しかけた。
もちろん、目は笑っていない。

続きを読む
posted by Dok at 11:40| Comment(0) | おはなし:西海王 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月26日

西海王 四の四

「おー。俺様って有名じーん」
草樹がぱちぱちと手をたたく。橙流はそっとこめかみを抑えた。
どうにもこのノリについていけない。村の人間は基本的にまじめで、橙流にあまり関心を向けない。
ほかのことに気を向ける余裕がないともいう。村は貧しいのだ。畑の世話をし、家畜を追い、日々の糧を得るうちに一日が終わる。
もちろん、祭りがあったり、行商人がやってきたりするとそれなりに賑わう。橙流も、蔓でかごや草履を編んで小銭を稼いだりするが、
基本的には青蘭の残していった畑の世話をしたりして過ごしている。
草樹のような性格のものと接するのは初めてのことであった。

続きを読む
posted by Dok at 09:32| Comment(0) | おはなし:西海王 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月22日

西海王 四の三

「何用だ?」
自分でも驚くほど低い声が出た。
草樹と名乗る男は、肩をすくめて橙流を見、困ったように目をそらした。
「んー。用は、別にないかな?」
「はぁ?」
続きを読む
posted by Dok at 10:51| Comment(0) | おはなし:西海王 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月29日

西海王 四の二

いつものように。日の出と共に起きだして、軽く水を浴びて衣服を整える。朝の散策は空気が澄んでいてすがすがしい気持ちになる。
続きを読む
posted by Dok at 01:13| Comment(0) | TrackBack(6) | おはなし:西海王 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月24日

西海王 四の一

「私たちの体に現れる文字はね…それぞれが最も影響を与えやすい元素と深く結びついているわ…
続きを読む
posted by Dok at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | おはなし:西海王 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年10月01日

西海王 三の六

「いや。…今はいい…」
 考えるより早く。言葉が口からこぼれだしていた。
続きを読む
posted by Dok at 00:07| Comment(0) | TrackBack(0) | おはなし:西海王 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月02日

西海王 三の五

 それは。紅鈴にとってひとつの賭けであった。続きを読む
posted by Dok at 10:16| Comment(0) | TrackBack(0) | おはなし:西海王 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月05日

蒼の夢

 白く冷たい月光が、僕たちの影を長く伸ばしている。
 僕たちは裸足だった。道のりは決して平坦ではなく、僕たちは何度となくつまづいた。蒼い影だけの世界で、僕たちはただ前だけを見つめて進んでいた。
 そう。僕は一人ではなかった。一人の少女と一緒だった。どういういきさつかはわからないが、僕は彼女とともに、夜の逃避行をしていたのだった。
 耳が痛いほどの静寂が、不意に乱された。追手だ。
 気がつくと完全に囲まれていた。弓の狙いは、すべて僕に定められている。こうなってしまっては、もはや助かる方法はないに等しかった。
 彼女が。不意に強く僕の手を握った。驚いて彼女を見つめると、彼女の瞳は強い意志に満ちていた。
「弓を下ろしなさい」
 毅然とした態度で、彼女は言った。追っ手の長らしき男が、手振りで弓を下ろさせる。これ以上逃げる意思がないことを悟ったのだろう。
「わたくしは戻ります。・・・この男に罪はありません。わたくしのわがままを聞き入れただけ。このまま捨て置きなさい」
 冷たい、感情のこもらない声だった。しかし僕は、その語尾にかすかな震えを感じ取っていた。彼女は僕の命を救おうとしているのだ。あれほど嫌っていた籠の中の生活に戻ることで。
 声を上げようとした僕を、男たちが取り囲んだ。両脇を抱えられ、腹に膝蹴りを受ける。そのまま殴られ、蹴られ、ぼろぼろになっていく僕を、彼女はずっと見つめていた。その瞳の中に、どんな感情が秘められているのか、僕には判らなかった。

続きを読む
posted by Dok at 00:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 短いお話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする