「目をつける、と言われてもな。もともと私は流れ者で、ここに住むことを許されているだけのものだ。なるべく人とかかわりあわず、
人の目に触れることなく、ひっそりと暮らすことが望まれている」
外に持ち出していた茣蓙を広げ、土間に広げる。蔓を編んで作った寝台に腰を下ろして、草樹には座布団を渡す。
茶請けには漬物くらいしかないが、何もないよりはましだろう。文句があるなら手土産の一つでも用意して来いってことだ。
青い目をじっとこちらに向けたまま、草樹は口を開こうとはしない。
「村の者たちは知らないと思うが、岳尊師は私を密偵だと疑っている。聖都に何度も手紙を出しているし、姿を見せないこともある」
お前もそうではないのか、と言外ににじませて草樹を見ると、居心地が悪いのか、彼は目をそらした。
「だが、お前には印が現れたと聞いている」
そのまま草樹は外を見ている。沈黙が訪れた。
「それは、王のしるしだ」
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蒼の夢
白く冷たい月光が、僕たちの影を長く伸ばしている。
僕たちは裸足だった。道のりは決して平坦ではなく、僕たちは何度となくつまづいた。蒼い影だけの世界で、僕たちはただ前だけを見つめて進んでいた。
そう。僕は一人ではなかった。一人の少女と一緒だった。どういういきさつかはわからないが、僕は彼女とともに、夜の逃避行をしていたのだった。
耳が痛いほどの静寂が、不意に乱された。追手だ。
気がつくと完全に囲まれていた。弓の狙いは、すべて僕に定められている。こうなってしまっては、もはや助かる方法はないに等しかった。
彼女が。不意に強く僕の手を握った。驚いて彼女を見つめると、彼女の瞳は強い意志に満ちていた。
「弓を下ろしなさい」
毅然とした態度で、彼女は言った。追っ手の長らしき男が、手振りで弓を下ろさせる。これ以上逃げる意思がないことを悟ったのだろう。
「わたくしは戻ります。・・・この男に罪はありません。わたくしのわがままを聞き入れただけ。このまま捨て置きなさい」
冷たい、感情のこもらない声だった。しかし僕は、その語尾にかすかな震えを感じ取っていた。彼女は僕の命を救おうとしているのだ。あれほど嫌っていた籠の中の生活に戻ることで。
声を上げようとした僕を、男たちが取り囲んだ。両脇を抱えられ、腹に膝蹴りを受ける。そのまま殴られ、蹴られ、ぼろぼろになっていく僕を、彼女はずっと見つめていた。その瞳の中に、どんな感情が秘められているのか、僕には判らなかった。
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僕たちは裸足だった。道のりは決して平坦ではなく、僕たちは何度となくつまづいた。蒼い影だけの世界で、僕たちはただ前だけを見つめて進んでいた。
そう。僕は一人ではなかった。一人の少女と一緒だった。どういういきさつかはわからないが、僕は彼女とともに、夜の逃避行をしていたのだった。
耳が痛いほどの静寂が、不意に乱された。追手だ。
気がつくと完全に囲まれていた。弓の狙いは、すべて僕に定められている。こうなってしまっては、もはや助かる方法はないに等しかった。
彼女が。不意に強く僕の手を握った。驚いて彼女を見つめると、彼女の瞳は強い意志に満ちていた。
「弓を下ろしなさい」
毅然とした態度で、彼女は言った。追っ手の長らしき男が、手振りで弓を下ろさせる。これ以上逃げる意思がないことを悟ったのだろう。
「わたくしは戻ります。・・・この男に罪はありません。わたくしのわがままを聞き入れただけ。このまま捨て置きなさい」
冷たい、感情のこもらない声だった。しかし僕は、その語尾にかすかな震えを感じ取っていた。彼女は僕の命を救おうとしているのだ。あれほど嫌っていた籠の中の生活に戻ることで。
声を上げようとした僕を、男たちが取り囲んだ。両脇を抱えられ、腹に膝蹴りを受ける。そのまま殴られ、蹴られ、ぼろぼろになっていく僕を、彼女はずっと見つめていた。その瞳の中に、どんな感情が秘められているのか、僕には判らなかった。
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